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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)4832号 判決

本訴原告(反訴被告)

アート輪転印刷株式会社

ほか一名

本訴被告(反訴原告)

大島商事株式会社

主文

1  本訴被告(反訴原告)は本訴原告(反訴被告)アート輪転印刷株式会社に対し、金六万八、一〇〇円およびこれに対する昭和五九年一一月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  本訴原告らは本訴被告に対し、別紙交通事故に基づく損害賠償として金三二九万二、九〇〇円およびこれに対する昭和五九年一一月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を超えては支払義務のないことを確認する。

3  反訴被告(本訴原告)アート輪転印刷株式会社は反訴原告(本訴被告)に対し、金三二九万二、九〇〇円およびこれに対する昭和五九年一一月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  本訴原告ら及び反訴原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを一〇分し、その七を本訴原告らの負担とし、その三を反訴原告(本訴被告)の負担とする。

6  この判決は、第3項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  本訴被告(反訴原告・以下被告会社という)は、本訴原告(反訴被告)アート輪転印刷株式会社(以下原告会社という)に対し、金二二万七、〇〇円およびこれに対する昭和五九年一一月一四日から支払済に到るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らは被告会社に対し、別紙交通事故に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。

3  訴訟費用は被告会社の負担とする。

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  原告会社は被告会社に対し、金五二五万四、七〇〇円およびこれに対する昭和五九年一一月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は原告会社の負担とする。

3  仮執行の宣言。

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告会社の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告会社の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告らの主張

(一)  事故の発生

別紙交通事故が発生した。

(二)  原告会社の損害

原告会社所有の加害車は本件事故のため損傷し、その修理費として金二二万七、〇〇〇円を要した。

(三)  事故の責任

本件事故は、被害車を運転して直進中の原告添田真司(以下原告添田という)の前方に、渋滞中の対向車線の中から横断進行してきた被告会社雇用の訴外水安高廣(以下訴外水安という)運転の加害者が突然飛び出してきたために発生したものであつて、本件事故の発生原因の多くは訴外水安の安全運転義務違反の過失に基づくものであり、かつ、本件事故は訴外水安が被告会社の業務の執行中に発生したものである。

(四)  本訴請求

しかるに、被告会社は被害車の修理費を支払わないばかりか、被告会社所有の加害車が損傷したとして多額の賠償金を請求するので、本訴請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  原告らの主張に対する認否

(一)は認める。

(二)は不知。

(三)は争う。

三  被告会社の主張

(一)  事故の発生

別紙交通事故が発生した。

(二)  責任原因

1 原告会社は、原告添田を雇用し、同人が原告会社の業務の執行として被害車を運転中、後記過失により本件事故を発生させた。

2 原告添田は、被害車を運転して直進するに際しては、本件道路上には下水道工事中のため徐行の標識があるのであるから、これに従うのはもとより、右側及び前方を注視して進行しなければならないのに、これを怠り、時速約五〇キロメートルの速度で前方及び右側方を注視せず漫然と進行した過失により、道路横断のため右側車線に停止中の加害車左前部付近に被害車右前部を衝突させた。

(一)  損害

1 加害車修理費 一八七万七、〇〇〇円

2 価格落ち 二九〇万円

被告会社が輸入業者から仕入れた加害車価格は一、二九〇万円(なお、被告会社がこれを小売りする際の予定価格は一、四九〇万円)であつたのに、加害者が本件事故に遭つて損傷したため、仲間売りにより損失を最小限にくいとめたが、修理後の加害車の売却価格は一、〇〇〇万円であつた。

従つて、仕入価額から売却価額を差引いた金員が加害車の価格落ちとなり、被告会社は二九〇万円の損失を被つた。

3 弁護士費用 四七万七、七〇〇円

(四)  反訴請求

よつて、被告会社は原告会社に対し、民法七一五条に基づき、反訴請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は事故日から支払済まで民事法定利率年五分の割合による。)を求める。

四  被告会社の主張に対する認否

(一)は認める。

(二)の1は過失の点を除き認める。(二)の2は争う。

(三)の2は否認し、その余は不知。

第三証拠

記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。

理由

第一事故の発生

別紙交通事故が発生したことは、当事者間に争いがない。

第二責任原因

一  被告会社の責任

(一)  成立に争いのない甲第一号証、原告ら主張どおりの写真であることに争いのない検甲第一ないし第七号証、被告会社主張どおりの写真であることに争いのない検乙第二号証、第四ないし第六号証、第八号証、証人水安高廣、同北村誠治、同西尾明の各証言、原告添田本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

1 事故現場は、東西に走る片側二車線の府道京都守口線(旧国道一号線)道路上であつて、公安委員会により最高速度を時速四〇キロメートルと制限され、現場附近には工場、倉庫が建ち並び、幹線道路でもあるため交通量の多い道路であつた。

2 原告添田は、事故当時、原告会社に勤務し、原告会社所有の被害車を運転して帰宅すべく本件道路を東進したが、東進道路左側車線は以前から下水道工事中であつて仕材が道路上に置かれたり、鉄柵(鉄柵の付近に徐行の表示があつた。)が設けられて通行困難であるため、東進する直進車両の交通秩序としては、右側車線を一列となつて直進進行する道路状況であつたのに、東進する直進車両が多いうえ、近くに信号機の設置された交差点があつて東行き右側車線が渋滞中であつたことから、交通秩序を無視して右側車線から左側車線へ進路変更して進行し、東側前方「モービル石油守口北サービスステーシヨン」店東側前にあつた下水道工事用鉄柵(右鉄柵)により左側車線が塞がれて直進進行することができない道路状況であつた。)の手前から再び右側車線へ割込んで進もうと考え、左側車線を時速約四〇キロメートルの速度で直進中、東行き渋滞車両の間から道路を横断しようとしている加害車を発見し、あわてて急ブレーキを操作したが及ばず、被害車右前端を加害車左前部に衝突させた。

3 訴外水安は、加害車(メルセデスベンツ五〇〇SEC八五年式)に給油すべく、東西道路南側に面した大鳥自動車工業(株)大鳥オートセンター定久を出て同社の道路反対側に所在するモービル石油守口北サービスステーシヨンへ向うため、東西道路を南から北へ加害車を運転して横断しようとしたが、東西道路東進車線が渋滞していて危険であつたことから、東西道路東側の交差点信号が赤色となつて西行き通行車両が途絶え、かつ、東進車線進行中の車両が停止するのを待つてゆつくりと北進し始め、道路中央部まで進行した際に東行き右側車線を通行中の車両(トラツク)が前車との間に加害車の通過が可能な程度にスペースを開けてくれたのをみて更に北へ直進したものの、東西道路左側車線を直進してくる車両があれば、右トラツクにさえぎられて死角となつてその安全を確認することができないことから、その存在をしらせるべく加害車最前部が車線区分線よりわずかに出たところで加害車を一旦停止させ、その安全を確認しようとしていたところへブレーキ音とともに被害車右前部角が加害車前部に衝突した。

4 被害車右前角のフロントグリルフエンダー、バンパーが凹損し、右前ライト、クリアランスランプ等が破損しており、加害車ボンネツト、フロントグリル、バンパー、電動フアン、ラジエター等が破損し、フロントガラスに傷がつき、フロントフレームが曲つていた。

路面には、鉄板部分を除くアスフアルト舗装部分のみで被害車左右前輪により印されたスリツプ痕が五・二メートル以上印され、路上に敷かれた鉄板部にも被害者がスリツプした痕跡が残り、加害車との衝突直後左へカーブしたスリツプ痕が認められた。

(二)  右事実によれば、訴外水安は加害車を運転して東西道路を横断するに際しては、東西道路東行右側車線が渋滞し、進路をゆずつてくれたトラツクがさまたげとなつて左側車線が死角となつていたのであるから、警音を鳴らすなどして加害車が東西道路を横断中であることを左側車線直進車に報せ、東行左右の区分線手前で一旦停止して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、警音を鳴らすことなく、区分線をわずかに超えて加害車を停止させる方法で左側車線直進車に加害車の横断を報せようとした過失により、加害車左前部と被害車右前角とを衝突させる事故を発生させたこと、及び、訴外水安は被告会社の業務を執行中に本件事故を発生させたことが認められ、右によれば、被告会社は、民法七一五条により、本件事故により生じた原告会社所有の被害車の損傷に基づく損害を賠償する責任がある。

二  原告会社及び原告添田の責任

(一)  原告会社は、原告添田を雇用し、同人が原告会社の業務の執行として被害車を運転中、本件事故が発生したことは、当事者間に争いがない。

(二)  前記第二の一の(一)認定事実によれば、原告添田は被害車を運転して東西道路を東進しようとしたのであるが、本件事故現場付近の東行左側車線が下水道工事のためその通行が事実上制限されており(なお、工事用鉄柵付近に設置された徐行の標識は交通の安全及び工事の安全のために設けられたものであつて、公安委員会による指定ではない。)、東行き直進車の交通秩序としては右側一車線を進行する道路状況にあつたのであるから、一旦左側車線へ車線変更して右側先行車両を追い抜き、工事のために左側車線の進行を妨げられたところで再び右側車線へ割り込む方法で左側車線を直進するにあたつては、制限速度を遵守するだけでなく、断えず自車の前側方を注視し、渋滞中の東行き車両間をぬつて東西道路を横断してくれる人又は車両等の存在を予測して減速しながら進行しなければならない注意義務があるのに、これを怠り、時速約四〇キロメートルの速度で前方及び右側方を十分に注視せずに直進した過失により、車線区分線よりわずかに左側車線へ前部先端部を進行させて停止中の加害車前部に被害車右前角を衝突させたことが認められる。

(三)  右によれば、原告添田は民法七〇九条により、原告会社は民法七一五条により被告会社所有の加害車に生じた本件事故による損害を賠償する責任がある。

第三損害

一  原告会社の損害

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証、前掲検乙第八号証によれば、被害車の本件事故による損傷修理費として二二万七、〇〇〇円を要したことが認められる。

二  被告会社の損害

(一)  加害車両の修理費

成立に争いのない乙第四号証の一、二、弁輪の全趣旨により成立したものと認められる甲第三号証、証人西尾明の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一、第二号証の一、二、前掲検甲第一ないし第七号証、証人水安高廣、同西尾明の各証言、弁論の全趣旨を総合すると、被告会社は昭和五九年一一月一〇日に輪入業者である高橋車輌(株)から加害車を一、二九〇万円で購入したこと、被告会社は自動車の販売、輪入、損害保険代理業、不動産の売買及び貸付その他これに附帯関連する一切の業務を目的とする株式会社であつて、加害車についてもこれを希望価額一、四九〇万円で転売して利益をあげる予定であつたこと、被告会社にとつて、加害車は新車として転売する商品であつたため、ナンバープレートも陸運局から仮登録番号のみを受け、これを表示していたにすぎないこと、被告会社は、本件事故後、加害車の修理を(有)中山自動車塗装に依頼し、同修理業者と損保調査員山本との間では加害車の修理費として一三七万七、〇〇〇円とする協定がなされたこと、ところが、被告会社では加害車損傷個所のみならず、全塗装による修理を依頼したため合計一八七万七、〇〇〇円の修理費を要したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右によれば、加害車の本件事故による損傷により、その修理として、全塗装を要することを認めるに足りず、被告会社が原告らに請求しうる加害車修理費は一三七万七、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(二)  価額落ち

証人西尾明の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証、証人西尾明の証言によれば、被告会社は、事故に遭遇した車両であることを明示して、修理後の加害車を交渉のすえ一、〇〇〇万円の価額で(株)ナガシマモータースに売却したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実及び第三の二(一)認定事実によれば、自動車の輪入、販売を業務の主たる目的とする被告会社にとつて、加害車は、自己使用を目的として所有していたものではなく、他に売却して利潤を得ることを目的として仮登録番号のみを受けていた商品であつて、本件事故がなければ加害車を新車としてその価額で売却し、相当の利益を上げることができたのに、本件事故のため加害車を新車として販売することができなくなり(なお、事故修理後の加害車を修理後であることを秘してこれを新車として販売すれば、その販売方法は詐欺的商法ともいうべきものであるから、被告会社の信用が失墜することは明らかであつて、これを新車として売却することができたとする原告らの主張は採用することができない。)、事故車であることを明示して販売交渉を行なつた結果、仕入れ原価より二九〇万円下回る価額で加害車を売却せざるを得なかつたこと、及び加害車は事故当時仮登録番号で走行していたことが認められ、右事実によれば、被告会社は、本件事故により加害車が損傷し、そのため、価額落ちとして少なくとも二九〇万円の損害を被つたことが認められる。。

第四過失割合

前記認定の原告添田の過失の内容、程度、訴外水安の過失の内容、程度、事故態様、道路状況等諸般の事情を考慮すれば、原告添田の過失を七、訴外水安の過失を三と認めるのが相当である。

そうすると、被告会社に求めうる原告会社の損害は、被害車修理費二二万七、七〇〇〇円の三割に相当する六万八、一〇〇円となり、また、原告会社らに求めうる被告会社の損害は、加害車修理費一三七万七、〇〇〇円と価格落ち二九〇万円の合計額の七割に相当する二九九万三、九〇〇円となる。

第五弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、被告会社が原告会社らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は二九万九、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

第六結論

よつて被告会社は原告会社に対し、六万八、一〇〇円およびこれに対する本件不法行為の日である昭和五九年一一月一四日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、原告らは各自、被告会社に対し三二九万二、九〇〇円、およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務があり、原告らの本訴請求、被告会社の反訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の各請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂井良和)

別紙交通事故目録

1 日時 昭和五九年一一月一四日午後〇時一〇分頃

2 場所 大阪府守口市佐太中町六丁目八二番地先大阪府道守口京都線道路上

3 加害車 普通乗用自動車(ベンツ五〇〇SEC・仮登録番号大阪二〇六七号)

右運転者 訴外水安高廣

4 被害車 普通貨物自動車(大阪四六ほ八七二三号)

右運転者 原告添田真司

5 態様 本件道路を南から北に向け横断中の加害車と、本件道路を西から東に向け直進中の被害車とが衝突

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